働かないことに対する不労所得と経済の考え方

不労所得とブータン

先ほども述べたようにブータンはけっして近代科学や近代文明を否定した宗教的 な反動国家などではない。 すでに述べたように、ブータンは水力発電所を建設し、そこから供給される電気をインドに 売っているし、また高山に生息する貴重な薬草なども輸出していて、そこで得られた外貨によっ て、ブータンは「必要に応じて」国内インフラを整備している。

 

 

しかし、ブータンの人たちが大切 だと感じる社会的な価値を壊す恐れのある社会インフラは、先進国から無料で提供されるもので あっても拒否するだけの明確な価値観があるのである。つまり、ブータンでは自然環境の保護が 経済に優先する課題であるわけだ。 したがって、ブータンでは国内全土に送電線や電話線を張り巡らせることはできないし、原始 林を切り開いて産業道路を造ることについても慎重な態度をとっているわけだが、その代わりに、 ブータンでは積極的に太陽光発電が導入され、また通信網についても衛星通信や携帯電話が活用 されている。その意味では、むしろ諸外国よりも先進的な部分が少なくないとも言えるわけであ さらに、このような社会的インフラを建設するにしても、ブータンではチベット仏教を中心と した文化伝統、農業を中心とした産業構造を維持するのが優先であるから、建設や工事にブータ ン人を雇うことは極力避けている。そのようなことをすれば、現金収入を求めて離農する人々が 増えて社会構造が変わってしまうという考えから、そうした「3K労働」はインド人の出稼ぎ労働 者に任せるというしたたかさぶりなのである。 このようにブータンでは市場原理、経済効率性よりも社会や伝統、あるいは自然環境を維持す ることを優先する政策が行なわれているわけだが、これに対してブータンの人々はどのように感 じているのであろうか。 しかしながら、いかに理念は立派であっても、当の国民がいやいやながら国王の方針に従って いるだけで、彼ら流の幸福を実感していなければ意味がない。

 

 

 

幸福度や満足感を数値化するのは なかなかむずかしいことであるのだが、ここに注目すべき統計がある。 たとえば、ブータンには自動車道路が走っていない地域がいまだにあるのだが、そうした地域 はけっして政府から見放され、取り残されているわけでもない。むしろ、自動車道路ができるこ とによって生態系が壊されたりすることで、伝統農業が続けられなくなったり、あるいは先述の とおり、鶴が生息するような貴重な自然が失われることを地元の住民が恐れて、自主的に建設を 取りやめたという例がいくつもあるというのだから驚かされる。 また、国民は昼間は原則、民族衣装を着ることを義務付けられている。また、喫煙は全国的に 禁止され、同時に、仏教を手厚く保護している。 経済優先ならどんどん、国民に新しい洋服を買わせたほうが良いに決まっているし、宗教につ いても、世俗化をするほうが経済発展のためには望ましい。だが、ブータンという国では、経済 的な豊かさを追求する前に、自分たちの文化的伝統を守るということが「国是」になっているのである。

 

 

不労所得